【今日はニャンの日】2020年11月3日 第59回アメリカ大統領選挙投開票日——分断の進むアメリカだが、誰に決まっても「従属ジャパン」は変わらない
平民ジャパン「今日は何の日」:7ニャンめ
◼︎熱狂する巨大な教会「国家」——アメリカ
アメリカとは、世界一の経済力、軍事力、金融力、ソフトパワーだ。 「世界一の政治力」を持つジャパンの宗主国は先進国随一の宗教大国でもある。
唯一神を祀りながら、アメリカは世界一の多様性国家だ。
日本の始祖は神武天皇だ、ルーツは縄文人だ、文明は弥生人だと言っていれば、ひとまず安心できる。
アメリカ人は遡って一つのルーツを持たない。
だから共通の神話が必要だ。
それがノアの箱舟と大統領選挙だ。
最初の侵略者は金銀を求めたスペイン、フランスからの征服者(カトリック)だった。その後イングランドから海賊(プロテスタント)がやってきた。
金銀が無いから入植した。
先住民を粉砕して土地を奪った。
アフリカから連れてきた奴隷を使って農業を始めた。
欧州各地から順次続々植民が押し寄せた。
迫害を受けたユダヤ人がやってきた。
戦争のたびに難民が来た。
世界中から食いっぱぐれが集まってアメリカを作った。
来た順番と経済力でランクをつくった。
女性、LGBTQ、少数者の権利もアメリカがけん引した。
アメリカ人の8割はキリスト教徒だ。
そのうちの6割以上、アメリカ人の半数近くが「天地創造」を信じている。
愛国歌『ゴッド・ブレス・アメリカ』を歌って涙を流す。
週に一度教会に行き、祈る。
こちらは靖国神社や伊勢神宮に参拝してもイザナギ・イザナミが日本をつくったとは、まさか信じていない。
声を張って「海ゆかば」を歌いながら泣いたりはしない。
神社仏閣は年末年始、墓参りはお盆に行くものだ。
アメリカは熱狂する巨大な教会である。
大統領選挙は法皇を決する全員参加型の宗教儀式だ。
大統領一家は4年間ロイヤルファミリーとなる。
身体検査は家族に及ぶ。
理想と現実、偽善と本音、フィクションとノンフィクションのギリギリのせめぎあいだ。
アメリカには根強い「反知性主義」の伝統がある。
反知性主義とは「反・知性=バカ、アホ」ではない。「反エリート」「反権威」「反権力」、生きるために戦う精神のバックボーンだ。
アメリカは波瀾万丈のアウトローを歓迎する。
悪役レスラーをたたえる。
スケールがでかければ詐欺師だって許す。
強いものをやっつけて盛り上がる。
スキャンダルはむしろ財産だ。
脛に疵持てば茅原走るジャパンとは大違いだ。
お奉行様お代官様に従い、お役人岡っ引きにすべて委ねて疑わない田吾作ジャパンとは正反対の、アメリカの土性骨だ。
役人は絶対腐敗する。
だから短期間で交代する。
合理主義のアメリカは性悪説に立つ。
これがアメリカの考え方だ。
同時に正義と情熱がドライブする国だ。
大統領を決めるのはこのエネルギーだ。
誰でも大統領になれる。
そして大統領はちょっとズレてるぐらいの人がいい。
インディアン虐殺で大きな功績を上げた第7代(初代民主党)大統領アンドリュー・ジャクソンは、ジャッカス(ロバ、間抜け)と呼ばれて愛された。
◼︎トランプを生み出したアメリカの壮大なリアリティ番組
「おまえはクビだ!」のキメ台詞で知られるリアリティ番組「アプレンティス(見習い)」のホストを長年務めたドナルド・トランプは、「ああ言えばこう言う大会」の世界チャンピオンであり、「予想のつかない我がまま大将軍」だ。
つまり、リアリティー番組の達人だ。
リアリティ番組とは「シナリオも演出も無いドラマ」の中で展開するドキュメンタリーもどきのエンタメだ。「テラハ」だ。
もちろんシナリオも演出もある。それはおとなの約束だ。つまりプロレスだ。リアル感の演出だ。
疑ったら興ざめる。信じれば楽しめる。
エンタメの真骨頂は強いものをぎゃふんと言わせるヒーローの登場だ。
大どんでん返しだ。それも計算されるのがショービジネスだ。
歌手を目指す素人の勝ち抜き歌合戦番組「アメリカン・アイドル」はレコード会社のそろばんで成り立つ。審査員の判定と視聴者の投票の配分で勝者が決まる。優勝者には大きなご褒美が約束される。「やらせ」じゃない。大統領選挙と「アメリカンアイドル」の根っこは同じだ。
こういう番組は日本では成功しない。
こういう政治制度は日本には無い。
妬み嫉みの日本人にはウケない。
トランプ大統領を生み出したのはアメリカという壮大なリアリティ番組だ。
日本では優勝者を視聴者になど決めさせない。
国を指導する政治家を有権者が決めることもない。
平民ジャパンは与えられた48種類のチョイスから、「推し」を選んで応援する。選択の自由はあるようで無い。
トランプは、アメリカの不動産王と呼ばれたこともある。
実態は経営破綻を繰り返したタレント経営者だ。
だから税金も払わない。
トランプはテレビを使い倒して大統領になった最初で最後の男として歴史にその名を刻む。それを可能にしたのは怒れる白人だった。
キャッチコピーの「アメリカ・ファースト(アメリカさえよければいい)」「MAGA:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(アメリカを再び偉大に)」は平民ジャパンにも耳タコだ。
しかし、日本人はその意味を知らない。
覚えやすいフレーズの裏には鬱積したアメリカ、特に中西部の白人たちの不満と怒りと不安と焦りがある。白人の怒りが生み出した大統領だから、対立が自らの政治的利益になると知っている。アメリカの対立軸を最大限に利用して、当選直後からすでに再選を目指し、それだけのためにすべての決断をしてきた。熱狂的な支持者と熱狂的な反対者がトランプをめぐってアメリカを二分してきた。地域で職場で、そして家族の中ですら、アメリカは割れている。
史上最高総額1.4兆円の選挙資金を投じた両陣営の広告キャンペーンが、アメリカを真っ二つに分けている。
壮大な浪費、アメリカの悲劇だ。
天才的な日和見主義者であるトランプには、一貫した政治思想は無い。
ただひたすらに欲望に忠実な発想と価値観は「ちょっと残念なアメリカ白人男性」のそれに近い。
相手の弱みにとことん付け込み、しくじっても決して謝るなと教えられて育った男が、世界最強国家の最高指導者の座にある。
これが2020年の人類の現実だ。